ダンサーインザダーク
こんなに恐怖におののいた映画は見たことがない。
というのが率直な感想だった。
歌姫ビョークさん扮するところの工場勤めの一児の母。
彼女は重い十字架である先天性の視覚障害というものを背負っていた。
やがて視力をなくなる・・・そんな恐怖の中で危険な機械を扱う仕事に従事する彼女のたった一つの希望は
同じ病気に悩まされる予定の息子に手術を受けさせること。この障害は遺伝するのだ。
そのためにせっせとタンス貯金をする。ある程度貯まったところで仕事はミスにより解雇。
心の支えであった貯金も大家に盲目がばれ、盗まれる。
当然困ったビョークは返還を迫るが大家は目の前で自殺。しかし殺害したと勘違いされ、逮捕される。
強盗殺人で。もはや何もかも失ったビョークは監獄内で途方に暮れる。
救いは要所で登場する目の見えぬ故に聞こえる様々なサウンド(物音?)、それに載せて歌声を披露する。
またそれも見るモノには苦しみを浮き彫りにするもので、ひたすら辛い。
恐怖で身震いがして、もう苦しくて仕方が無かった。逃げ出したくなった。
もうなんでもいいからお代官様!許してくだせえ!
ようやくほっとしたのは、彼女が死刑の宣告を受けた時。
「そうだ。もうビョークを許してやってくれ。死なせてやってくれ。」
心から思った。頬を涙が伝うってこういうことなんだ。苦しみの中からの安堵感。
あふれ出るように、拭うことすらままならない暖かい一筋の水流。
だがしかし、そう簡単には物事は運ばない。
ビョークの友人達はこぞって助け様とする。
強盗という部分の疑いははれたのだ。その金を持ってすれば弁護士を雇える。だから助かる。
友人達は死刑宣告から逃れさせようとしてくる。
もう辞めてほしい。ビョーク云々ではなく見ている筆者は苦しいのだ。
ビョークはその金で息子に手術を受けて欲しいという事を告げる。
それはつまり死刑ということ。
首釣り台にたった時、やがて来るであろう平安を暗示しているかに見えた。
そうだ。そのまま終りにしてくれ。
しかし最後は残酷極まりなかった。
首吊り台の上で息子の手術の成功を知ることになる。
死より先に平安がやってきたのだった。