グレイドワン


 三十代初のお盆。夏休みというにはちょいと肌寒いが「夏季」の野郎もこう
毎年凝りもせず来日するのも飽きてきたのかも知れない。夏ご当人も休暇をと
っても構わないかな。「夏季」の恩恵を毎年受けられるわけではないというこ
とかもしれない。夏がお盆休みをとってるんでしょうな。等と思っていたら、
欧州各国やら香港やらは連日猛暑。平均気温38℃超と来ている。夏は私が思
っているよりも“ご多忙”のご様子。香港からサーズが消え、本國日本ではま
た白装束が脚光を浴び、関東・東海で豪雨、はたまた亜米利加は停電らしい。
亜米利加では日本と違い“競争社会先進国”としてのプライドからか電力会社
がかなりの数犇めき、停電になると復旧に時間がかかる。日本は独占という名
のもと、逆に安定しているが電気料金が亜米利加の1.5倍だそうだ。世界中
で天災・人災の嵐。
 とにもかくにも8月であります。肌寒さの中の蝉時雨は不思議な感覚ですが、
私は8月といえばとにかくもう、プロレスであります。思えば小学校低学年か
ら観続けるスポーツはヤクルトスワローズ新日本プロレス、大相撲、競馬。
今年は江戸開府400年、江戸東京博物館10周年そして週刊プロレスが20
周年だそうで、痲酔も30歳。考えてみれば私が週プロを購読し始めて、15
年ほど経過しました。毎週ほぼ欠かさず買い続けてるんだな。両親を始め親類
縁者から反対され続けていたのにどうして見始め、まだ見つづけているのか?
不思議なものです。
 高校生の頃、NTVの深夜番組で野坂昭如さんが
「プロレスは面白いねえ。そこら辺のドラマ観てるよりよっぽど面白い。」
と発言なさっていた記憶があります。ガキの頃プロレスに傾倒していた私は親
類縁者からの反対と共に浴びせられた罵声の数々と闘っていました。勿論プロ
レスを罵倒したものです。曰く「八百長」であります。恐らく多くのプロレス
少年が抱えていたことであろう苦悩。「プロレスは八百長なんだ。」と言う大
人達が許せなくて仕様がなかった。しかし我々プロレス少年は反論出来なかっ
た。血眼になり、喚いて、プロレスに対する罵倒に抵抗していたものの、周囲
の大人達は信じてはくれなかった。
 当時プロレスと同様に大好きだった落語。「現代落語論」という立川談志
の名著を購読した痲酔少年は「落語とは業の肯定である」という言葉に感銘を
受けました。周囲の大人達は「落語とは莫迦莫迦しい芸である」とか「落語家
・咄家とは笑わせ屋である」という認識を持っていたようで、どうにも解せな
かった痲酔少年の心に光が差したというか、あくまで「笑い」はポピュラリテ
ィの獲得の為の手段に過ぎず、その奥にもっと壮大な秘密があるに違いないと
信じていた私は救われたものです。
 しかしその求道者というか落語における談志師の如く存在が語り部として知
らなかった当時痲酔少年は苦汁をなめました。もはや戦後生まれの大人達はロ
ジカルな説明がなければ信じてはくれない。「なぜロープに振ったら戻ってく
るのか。」「トップロープに登ってる最中に攻撃しないのか?」「あんな大男
が簡単に投げられるものか?」という大人達の疑問に反論できなかったわけで
す。そこで前述の野坂氏の発言。
「プロレスは面白いねえ。そこら辺のドラマ観てるよりよっぽど面白い。」
確かにこの発言はプロレスは予定調和であるという事を認めている事にはなっ
ているかもしれない。昨今では蝶野選手の発言。「プロレスラーは鍛えたとこ
ろを攻撃する。」先日亡くなった冬木選手の発言「プロレスはスポーツだと思
ってない。ショービジネスだ。」など予定調和を認めた発言であるかもしれな
い。しかしですね。ガキの頃の周囲の大人達が吐いていた言葉の数々よりもよ
っぽどいい。高校の同級生の市川君の当時の発言
「予定調和を“八百長”と発言されるのはむかつくと言うよりもつまらない」
そうなんだ。つまりガキの頃からの永年の疑問は其処にあったのです。プロレ
スが予定調和だろうとなんだろうと、私は面白いと感じていた。面白いと感じ
ている相手に対し、つまらないと言われたら、その相手を厭になる。厭になる
ってよりも周囲の大人達に対し、つまらない思いを持った、とただそれだけだ
ったのです。以前からある全ての格闘技と比べてもプロレスが息の長い人気が
あるのはその予定調和とやらが“面白い”との民意があったからでしょう。力
道山を観るために街頭テレビに群がったのはもう50年も前のことなのです。
現在でも亜米利加での咄ですが、WWEという団体の興行が世界で最も広域な放
送エリアを持つスポーツ番組なのです。つまり世界的にみれば米メジャーリー
ガーであるイチロー選手や松井選手、セリエAで活躍中の中田選手よりもWWE
属のTAJIRI選手の方が有名な日本人アスリートとなります。これは即ち落語に
於ける「笑い」と同様「予定調和」と私の周囲の大人のように莫迦したものが
世界的には受け入れられている証であるといっても良いのではないでしょうか
?しかもあんな大男が飛んだり跳ねたりのっかったりしながら20分も闘うの
です。その苦しい中予定調和を成立させてるとしたら、これは凄いことですぞ
 さて本題であります8月といえばプロレスという咄。今年も世界で2番目に
大きい規模の団体新日本プロレスにおける“プロレス”の本場所。昨今プライ
ドなど総合格闘技というプロレスに形態の似通ったジャンルの格闘技がTVで
ゴールデンタイム放映されていることもあり、ブームになっている中で、新日
本も総合格闘技路線を今年スタートさせ、純然たる“プロレス”のみの興行が
少なくなってきたのですね。更にタッグマッチなどプロレス独自の醍醐味を判
りやすい形式で手っ取り早く表現できる種の試合が多い中、この本場所はシン
グルマッチによるリーグ戦。その名もG―1クライマックス。場所は大相撲の
メッカ両国国技館。一週間という極短期間に日本人プロレスラーとしての大御
所同志の試合が多数組まれている祭典なのです。私は相撲も競馬も大好きなの
で、このネーミングといい、開催場所といい、夏はプロレスと謳いたくも成る
のです。
 過去の戦績を振り返ると、G−1男と称われる蝶野選手。過去12大会中4
度優勝しています。第一回大会闘魂三銃士が上位独占の中、最も人気実力とも
に評価の低かった蝶野選手が優勝。二回WCWという当時亜米利加二大メジャ
ー団体の一角が参戦し、猛威を振るったリックルード選手という外敵を退け、
連覇。第4回大会では蝶野選手自身の2度優勝という戦績を下馬評では無視さ
れ、優勝候補にあげられなかった憤りをバネに優勝。この4回大会を皮切りに
コスチュームを現在の黒仕様に変化させたのです。その後スーパースターにな
った蝶野選手ですが、G1からは見放されていました。しかし、昨年高山選手
が外敵としてG1初参戦初優勝という快挙を止めたのは蝶野選手でした。こう
してみるとG−1は蝶野選手のスターダムを見守るような祭典であると云える
かも知れません。
 その蝶野選手が今年予選敗退しました。決勝に登ったのはIWGP10度防衛と
いう快挙を成し遂げた永田選手、現弐冠王にして昨年の準優勝者高山選手、プ
レスリングノアから初参戦の秋山選手、そして蝶野選手のタッグパートナー
天山選手。前三選手の華々しい活躍とは裏腹に天山選手は勲章が少ない。シン
グルプレーヤーとしての実績が殆どない。
 更に蝶野選手という偉大な兄貴分と行動を共にしてきた為にどうしても影に
隠れた印象がある。G1では過去準優勝があり、準決勝で橋本選手(現ゼロワ
ン 三冠王者)と闘い、負傷したにも関わらず勝ち進んだが、決勝で佐々木選
手(現WJ。MGM王者)に惜敗。今年度は高山選手の弐冠に挑戦も敗退。蝶
野選手とのコンビで保持していたIWGPタッグ王者も後輩に取られるなど、踏ん
だり蹴ったりの状況…このG1は背水の陣なのです。
 其処に来て決勝リーグ。準決勝第壱試合は永田対秋山。先日プロレスリン
ノアにおいて永田選手が勝っていた、この宿命の対決は秋山選手がリベンジを
果たしました。続く第弐試合も我が天山選手が前述の高山戦敗退からのリベン
ジに成功。高山戦シングル初勝利。
 さあ決勝。天山対秋山。どちらが勝っても初優勝。ノアからの外敵秋山選手
による前人未踏の初出場初優勝となり、新日本の本場所が崩れ落ちるか。それ
とも天山選手の6年越しの夢である初優勝を果たし、新日本プロレスを守りき
ることが出来るか?こうご期待!

 さあ皆さんプロレスを観ましょう。
本日8/17(日)15:30〜17:25『闘魂プロレス真夏の感動祭り!G1王者決定SP』
(※こちらの特番はテレ朝・名古屋テレビ・KKB鹿児島放送のみでオンエアと
なります。何卒ご了承ください)をお楽しみに。あと壱時間後です。

 天山がんばれえ!お盆休みの最後に如何ですか?

ワールドプロレスリング
http://www.tv-asahi.co.jp/broadcast/wrestling/
新日本プロレス公式サイト
http://www.njpw.co.jp/
アリストトリスト
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