yawn(街の片隅にて)

街の片隅にある丸テーブルのあるバーで
チキンを肴に外国産のビールを呑んでいると
ふと
「あくび」が出た。
多国籍な情緒の中薄暗い店内、若い女性店員と
隅の方で外を見つめる仕事がえりであろう
作業服の男。
何の関連付けもできやしないが、私を含め皆
一様に寒そうに凍えている。
暖房が壊れているらしい。時折自分の体から
発せられる息が白い。
例の「あくび」も例外ではない

電車の通過音が店内を木霊する。
店はガード下にあることを考えれば当然だ。
私は駅から、馴染みの喫茶店を横目に
このガードの下にある商店街をすり抜けてきた。
駅は大都会の中心にある。

幼少期、私は住いと川を隔てて向こうと
こっちにこの街は位置し、大きな橋を渡り
大正生まれの癖に女学校での図体のデカイ
老婦に連れられてよく来たものだ。
老婦は言うまでも無く私の実の祖母であり
背丈は今の私ほどであった。

ただ街はずれのあの橋を渡るという行為が
とても当時の私をワクワクさせた。
10分もあるけば訪れる事の出来る場所なのにだ。
橋を渡り、親父の職場が見えて来る。
魚河岸だ。やがて、歌舞伎座がでてきて、
松竹をぬければそこに雄大にその街は構えている。
そうあの時も高島屋の地下大食堂でお子様らんちを
食べ、続いて資生堂パーラーでケーキを食べた後、
決まってこの街で大きく
「あくび」をして、駄々をこねたものだ。
あの「あくび」も白かったなあ。
祖母によく連れてこられた街に友人を誘った。
いや誘われたのかな?どっちでもいいけど
彼とも十代のころよくここに来たものだ。
寝ることも惜しかったあの頃もきっと
「あくび」はしたんだろうな。
まあ何と言うかただ、
幼き日
おねだりに満足し「あくび」を祖母の前でした。
十代の頃
クダラナイ話に夢中になって「あくび」を彼の前でした。
そして・・・今
何の意味も無く「あくび」に酔いしれている。
何故?さあ、何故でしょうね。
まあビールのせいだけでは無いだろう
私が分かってるのは
この街は
「銀座」という名前だってことだけかな。