駄樂 〜 痲酔ヤスタカ獨言(ウィルスダスト処方箋 「膿」 ============ 2002.05.15.VOL.12より)

その男は車内の私を確かに一瞥した。
彼は何やら怒っている。優しい顔の四〇は越える大柄の男。
彼の目の前には白衣を着た坊主頭の細身の若い男。
坊主頭は震えている。
何とも言えぬ空気感。
その男は車内の私を確かに一瞥した。
「見せもんじゃねえよ!」
と私に殴りかからん勢いを持って。
瞳は若干潤んでいる。
何に怒りを持っているのかは理解し得ないが
偶然私が外した視線に怒りを増幅させたようだ。
私は微笑した。大の男が怒りで震えているのに
大声で笑うわけには行かない。でも微笑した。
彼との視殺戦で微笑した。
静かに微笑した。
潤んだ瞳に微笑した。
馬鹿にしているんじゃないが、馬鹿にしていると捉えられても仕方がない。
そこまで解って微笑した。
その男は車内の私を確かに一瞥した。
私はそれに微笑した。
自分が滑稽に見えた。だから微笑した。
怒りに震えている男、打ちひしがれてる男、それを滑稽に眺める男。
微笑するしかなかった。微笑することで罪悪感も得た。

人間の感情を雰囲気や言動で読めると思いこんでる人々。
それに対し

私は微笑するしかないのだ。