SUPER★GRAPPLER『ランナーズ・ハイ』

私はガキの頃虚弱体質で、精神薄弱であった。
それらを克服した暁には薬の副作用やら、食い過ぎやらで肥満となった。
元々運動神経に乏しかったのも手伝って、決まって「かけっこ」「徒競走」などの短距離走
マラソンもビリだったね。
良い思い出はない。
あのリボンみたいなのを切ってゴールしたこともないし、
切りたいと思ったことなど一度もなかった。
かといってそのための努力なんてしなかったのだから、怠慢であり、諦めていたのだろうと思う。
「走る」という行為に対する気概がない。
「どうせ遅い」
と決めてかかっている。煙草もガンガン吸っているから、殊更であると言い訳もしている。
そんな私が今では日々少しでも早く目的地に着こうと走っているんだから、不思議なものだ。
どうせ遅いのにね・・・少しでもと思っているみたいである。
そんな私は兎と亀の競争の話は嫌いである。
かといってあんなものあるはずがないし作り話だと思っているからでもない。
兎と亀にとって、早くゴールに着くという目的意識が一致するのは何故なのだろうか?
亀は早く走るってことを第一義に考えるのかね?
亀は諦めてるんじゃないのか?
いやいや己の特技をのばす努力に目を向けているんではなかろうか・・・
でなければ亀が走るのが・・・いやいや歩くのが遅い理由が見あたらない。
速く走りたいので在れば重い甲羅も短い足も不必要である。
亀もそう生まれたくて生まれた訳じゃないということであろうか?
だとすりゃあの話は非道い。差別である。
足が遅いからって、別に困る事なんて少ないだろう。
殆どの人が今アテネに集合している皆さんよりは劣っているんだ。
「いやいや痲酔そうではないよ。あれは風刺しているだけなのだ。徒競走を人生になぞっている。例えゆっくりでもコツコツやっていけば天才を越えることもあるのだからって話だ」
と言われるかね?
確かにそうかもしれない。
しかし、天才がコツコツやったらどうなるんだ?
「そんな夢も希望もない・・・」
と言われるかな。無能の僻みかね?弁解かね?
まあいいか。
さて本編について
走ることの出来ない身体の女性と走ることの天才の男性の夫婦。
とあるレースに出向いた夫はふとした事故で死んでしまう。
妻は絶望する。
そこにご登場の死神。そこは出来損ないの死神。
いや新人で不慣れな死神がその夫の担当であり、当然予定通りしくじる。
魂を肉体から遊離させ、閻魔様に届けなくてはならないのに
遊離させる前に死人である夫、目覚めてしまったから、さあ大変。
何が大変なのかは知らないが、少なくもしくじり、上司である閻魔様に叱られる。
弱ったがここは仕方なしにそのまま連れて行くことにする。
夫はたまったものじゃない。
身体が弱い妻をこの世に残し、あの世へなんてわけには行くまい。
さあ閻魔様に直談判と相成った。
書かないが、まあ色々とあって、
しくじり死神の新人眼鏡の失敗により地獄でレースとなる。
レースには六道の代表選手が出ており、勝者のいる世界に誘われることとなる。
新人眼鏡が勝つと見事に人間界に戻れると言うが、それは信用できない夫はレースを辞めさせる。
そこで舞い込んできたニュースによると、妻も余命一日。
夫の死による心労が原因であろう。
さあ困った死神連中。何しろ最早夫に感情移入である。
何とか夫婦をモトサヤに納めたい一心だ。
しかし、まあそうは問屋は卸しません。
私が許しても閻魔様が許しませんってなもんだ。
閻魔様が仰るには
「レースで夫が勝てば、望みを叶えてやろう」
というもの。夫は迷わず妻の命・・・いや自分の命を妻にと。
唐突で申し訳ないが輪廻転生、リーインカネーションという流れがまあ仏教などにはある。
平たく言うと人間死んでもまた生まれ変わるといった思想である。
つまり輪廻の輪に人間は並んでいて、グルグルと回っている。
コースをずっと走り続けるランナーのように
歩みの遅いもの早い者はあっても、一様に走る(歩く)のだという。
しかしその輪廻の輪から外れるとその魂は永遠に宇宙を彷徨う。
つまりそれを悟りというのか。
かくして夫はズバリ地獄レースで優勝。妻は蘇り、己は悟りだ。
モトサヤというわけではないけれど、夫婦はいつでも一緒にいながら、
一生出会うことが許されない関係になった。
走ることが生き甲斐の男がレースから外れ、走ることができない妻はレースを続けることになった。
兎はそうやって亀を待っていたのであろうか。
最も人間らしくない悟りという境地を人間にとっての理想とするならば、
やはり天才には叶わないってことなんだろうか?
いやいや基準が違うのだ。
私は悟りを開きたいなどとは思わない。
普通でいいよ。
でもその普通もままなっていないから困ったものだけども・・・
私事はいいとして、兎は輪廻の輪から外れ、亀をじっと見守り
待っているのだとしたら、それはどういうことなんだろう。
私には一生解らない話なんだろうか?
それは優しさなんだろうか?
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