一滴文庫『ゆきのしたに嬰に菜の花』

なんだか毎日こんなに色々見れて東京という街は幸せな処だな。
わたしの生まれ故郷ではあるけれど、それにしても娯楽やら芸術やら
事欠かない。凄いね。
しかも寄席や歌舞伎座などの芝居小屋規模までがわたしは好きだし、
何となく日本人に合ってるように感じるのは私だけだろうか?
その規模以下の大きさのイベントが毎日そこかしこ行われてる東京は
そういう意味じゃ堪らない。住めば都、いや住まなくとも都ではあるが
これこそ都の所以であろう。
まあいいや
さて今日は半年ほど前、
川上史津子さんが出演した舞台のもぎりを手伝った以来
足を運んだ覚えのないのに今週貳度目の下北だ。
下北とか三茶とか実はあんまり得意じゃない。
苦手な街だ。
どうしても山手線で言うと右側が好きで、其れ以外はあまり落ち着かない。
さて苦手な下北だし寒いし、ここはそうですね、う〜む
自動車で移動。
いつもなら1時間かかるところ2時間半もかかり約束の時間には遅れるし、
テンションは上がりまくるしと思っていたら。
見えてきた駅は経堂だの豪徳寺だの・・・目眩が・・・
こりゃもう間に合わないだろ?
と思ったら見えてきましたよ。世田谷通り。
この通りキャロットタワーの処だよね、と自問自答。
さあ世田谷通りだ。ふと見上げると標識は
右行くと環八、ひだり行くと環七・・・
あれ?おいらさっき環七を三茶方面に行ったよな?と再び自問自答。
でも逆から出てきた・・・いつのまに環七渡ったの?だ?
急転直下間に合った。
待たせていたとんちき、ぽえまーK、カラピレポロン、大野(花組芝居)らと合流。

今日はわたしの大学の先輩川隅奈保子(青年団)が出演する演劇を鑑賞しに来た。

喪服の男があぐらをかき散らかった部屋に座っている。
なんか声を出したりしていると女性が入ってくる。
どうやら兄妹のようだ。晩ご飯を告げに来た妹は去る。
一人になった兄、着替えようと、タンスを開けると何かを発見する。

こんな具合で物語は始まる。

どうやら男一人、女5人の兄妹の母が亡くなったらしい。
彼らの父母は互いに二人の連れ子を抱えたまま結婚し、更に二人の娘を授かった。
つまり異母だったり異父だったりする兄妹で、現在はみな成人し、
最初の男である兄以外はこの本家を離れている。
兄は独身で、母の面倒を見ていた。兄は母の連れ子である。
さてはて兄は箪笥の中で何かを発見した。
その何かは男性器を想像させるような木彫りの彫刻で
恐らく母が製作したものだと思われる。
部屋中散らかっているのはその木くずであろう。
兄も母の生前此の部屋に入れて貰えなかった。
兄は得も言えぬ気持ちになり、妹の旦那に相談する。
もう一人夫持ち妹がおり、その夫は産婦人科医で、いまいち話が合わない。
ものがものだけに妹らには言いずらいからてんで、彼に相談する。
どうもお互い得も言えぬ気持ちになり、暑い抱擁なんか交わす始末。
そこを一番上の妹が発見。更に木彫りも見つかり
次々妹に見つかっていく兄。
しかも兄がぬれぎぬを着せられ、ホモ疑惑まで浮上。
しかも妹らは驚く気配もない。笑って、木彫りを取り囲む。

とまあそんな噺。噺を書くとこういう感じになってしまうが
この噺を展開する家族がとてもいい。
母が死に目に見えた繋がりがいまいち曖昧になってしまった家族。
そこに引きづられて来た過去が記憶が噴出し、
目に見える儚さや目に見えない辛さ、苦しさが、露呈する。
久しぶりにあった兄妹と半分しか繋がってない血を
どう解釈するか・・・

わたしの母が死んだ時、家族全員病院で見取った。
上の妹は昨晩徹夜で看病する係りで寝ていたが、何となくわたしは起こした。
もう一人の妹は何となく実感が湧かないまま、其処に居たが、
実は心の中で色々なもやもやがあった様子だった。
何となく胸騒ぎがして、わたしはお袋に近づいて、手を握り
母を呼んだ。なんどもなんども大きな声で。
心電図がドラマみたいになった。
上の妹は寝惚け眼を悔やみ、その後寂しさから涙を流した。
父は病室から立ち去った。
下の妹は実感が湧き、これまた泣いた。
わたしは何というかありがたかった。
妹二人の肩を抱き、みんなで見とれた喜びをかみしめた。
これで良かったんだ。としか思えなかった。
舞台上のあの家族の如く問題が多い家庭ではないけれど、
わたしはずっと10年近く家族と過ごしてはこなかったから
何となく疎外感を感じていたのかもしれない。
なんとなく家族になれた気がしたのかもしれない。
母が死んで寂しいけれど、母はこのタイミングで死ねて良かったのだと感じ取れた。
勝手な意見だけども、素直にそう思えたんだ。
これは母が望んでいたことなのかもしれない。

舞台はエンディングでみんなでその母の部屋で寝ることになった。
なんかそれでいいと思った。